中国そろばん大会レポート② リピート参加させる仕組み作り

今回の上海大会で特に印象に残ったのが、参加者全員が「大会に参加することそのもの」を楽しめるよう、さまざまな工夫がされていたことです。

目次

会場に入った瞬間から始まる「大会」

今回の会場となったのは、上海郊外にある白金漢爵大酒店。チェーンのホテルでありつつも、豪華な内装で、人目を惹きます。そのコンベンションセンターを中心に、大会が開催されました。

ホテルに入ってまず目に飛び込んでくるのが、「状元門」と書かれた大きな装飾門です。

「状元」とは、中国でかつて行われていた官僚登用試験「科挙」で、最終試験を首席で合格した人物を指す言葉です。

いわば「最高の栄誉を得た者」。

中国の伝統建築を模した華やかな門の前では、大会の選手服を着た子どもたちが次々と記念写真を撮っていました。

競技が始まる前から、「今日は特別な日なんだ」と子どもたち自身が感じられるような空間がつくられているのです。

同時にこれは、当然子どもたちだけでなく、保護者にとっても、指導者にとっても大きなインパクトがあります。

また撮影専用の大会ボードも設けられ、プロのカメラマンが常時スタンバイしています。

写真や動画は大会専用アプリにアップされ、自由にダウンロードできる仕組みになっています。

また大会の状況も生配信され、いつでも見返すことができます。(以下のリンクをクリックください)

https://m.alltuu.com/album/3324e7746d0aca2f926bb4b8599d985f/5526257477?from=qrCode&menu=live

競技会場もセレモニー会場さながら

競技会場に入ると、さらにその規模に驚かされます。

会場にはクレーンカメラを含め6台のカメラが設置され、正面の大きなスクリーンには会場の様子がリアルタイムで映し出されます。

子どもたちの選手服、首から下げるパス、各教室が掲げるチームボード、会場の装飾までデザインには統一感があり、会場全体が一つの世界観の中につくられていました。

普段はそれぞれの地域、それぞれの教室で練習している子どもたちが、この日だけは大きな舞台に集まります。

そこで競技をし、仲間の姿を見て、表彰される。

その経験そのものが、

「また来年も、この舞台に立ちたい」

という子どもたちの目標になるのかもしれません。

頑張った子どもたちや指導者を称える仕組み

子どもたちは、当然、事前に模擬問題を繰り返し練習し、少しでも成績を伸ばそうと努力を重ねて大会に臨んでいます。

大会では、日本と同様に各競技部門の上位成績者が発表され、1〜3位は個別に表彰されます。さらに、最高1500元(日本円で約36,000円)もの賞金を手にすることもできます。

子どもの大会に賞金を設けることの是非については議論の余地もあるでしょう。一方で、競争意識を高め、子どもたちの「もっと上を目指したい」という意欲を引き出す仕組みの一つになっていることも感じました。

そして、この大会では上位の子どもだけではなく、すべての子どもたちがトロフィーと賞状を手にします。

さらには、指導者も参加した教室も全員が表彰されます。

順位を競う厳しさがある一方で、大会に参加し、挑戦したこと自体を子どもたちの大切な経験にしようという思い、そして日々苦労して指導をされている指導者を称える思いも強く感じられました。

参加者全員がそろばん文化継承者

表彰式の中で、とても興味深く、そして印象に残った儀式がありました。

それは、参加した子どもたちも、保護者も、指導者も、関係者も全員が起立し、声をそろえ、

「自分たちはそろばん文化の継承者であり、これからもそろばん文化を守り、受け継いでいく」

ということを誓う場面です。

そこには、オリンピックさながらの松明をつなぐような演出もされています。

そろばんは、単に計算をするための道具ではありません。

長い歴史の中で、より速く、より正確に計算するために、先人たちがさまざまな知恵や工夫を重ねながら形づくってきた道具です。

そして、そこには道具そのものだけではなく、そろばんを作る職人の技術、教える先生たちの情熱、学ぶ子どもたちの努力など、多くの人たちによって育まれてきた「文化」があります。

今、私たちは電卓やスマートフォン、そしてAIまで、瞬時に答えを出してくれる時代に生きています。

だからこそ、「そろばんを習う」ということの意味も、単に計算が速くなることだけではなくなっています。

何百年にもわたって受け継がれてきたものを、自分たちの世代で終わらせるのではなく、次の世代へ渡していく。

その担い手が、今ここにいる全員なのだ――。

大会に参加したそれぞれに「自分はそろばん文化の継承者なのだ」と意識してもらうこの儀式には、

そんな願いが込められているように感じました。

長い歴史を持つ文化を自分たちが受け継いでいるという誇りが持てること。

そこには、他の習い事にはない、そろばんならではの魅力があるように思います。

その思いはこの大会を通じて、全員にしっかりと根付いていったように感じられました。

大会が終わっても「大会」は続く

そして、この大会をさらに特徴的なものにしているのが、競技終了後です。

競技の夜には国際交流パーティが開かれ、普段は交流することのない地域や国の子どもたち、先生たちが交流します。

さらに、表彰されたら、終わりではなく、子どもたちには「研学」と呼ばれる学習プログラムが用意されています。

今回の上海では、上海交通大学や華東師範大学など有名大学を訪問するほか、造船所を見学し、

陸家嘴や外灘など上海を象徴する場所を巡るプログラムも組み込まれていました。

上海交通大学では大学のキャンパスや図書館などを訪ね、AIをテーマにした授業なども用意されていました。

一方、子どもたちがプログラムに参加している間には、指導者向けにフォーラムも用意されています。

「そろばん教室を運営するのに、どのように集客をするのか?」

「どのような顧客を獲得すべきか?」

「どのようなそろばんがいいそろばんなのか?」等々、

日頃、経営を担い、問題を抱えている指導者にとってはとても興味深い内容ばかりです。

フォーラムを通じて、指導者同士が学び合い、悩みを分かち合い、交流を深めていく仕組みができているのです。

つまり、遠くから上海へ来て、

「大会は、子どもたちの順位が決まって、帰る」

のではありません。

競技をする。

全国や海外の仲間と出会う。

そろばん文化を学ぶ。

経営ノウハウを共有し合う。

大学や産業施設を訪ねる。

開催都市の歴史や文化に触れる。

子どもたちや指導者たちに対して、そのすべてを一つの体験として組み立てているのです。

そろばんを通して新しい世界を見せる大会

大きな舞台に挑戦すること。
違う地域や国の子どもと出会うこと。
自分を育ててくれた先生の存在を改めて認識すること。
そろばんの歴史や文化に触れること。
自分たちのやっていることに誇りや意義を感じること。
普段暮らしている場所とは違う世界を見ること。

そして、

「そろばんを続けてきたから、こんな経験ができた」

と参加者自身が感じること。

そう考えると、この大会は「そろばんの上手な子が順位を競う大会」というよりも、そろばんを通して子どもたちや保護者、指導者たちに新しい世界を見せる大会なのかもしれません。

レポート③の次回は、本大会で採用されたAI採点システムについてご紹介します。

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