
今回、私たちにとっても初めての試みとして、日本から播州そろばん職人・高山辰則さんに同行いただき、日本の木製そろばんの展示・販売を行いました。
木製そろばんの日中の職人の出会い
中国では現在、大多数の子どもたちがプラスチック製のそろばんを使っています。
日本のそろばん教室では木製そろばんが広く使われていることを考えると、その違いはとても印象的でした。
一方、中国のそろばん関係者の中には、日本に高いレベルのそろばん選手が多い理由の一つとして、木製そろばんの使いやすさや珠の動きの良さに注目している方もいます。
今回の会場には、日本の高山さんだけではなく、中国で数少ない木製そろばん職人の楊益文さんも参加していました。
そこで生まれたのが、日本と中国、二人のそろばん職人の交流です。
楊さんは60代半ば。高山さんとは15歳以上の年齢差があります。
しかし、楊さんは高山さんのそろばんを手にしながら、
「高山さんのそろばんは素晴らしい。今回のご縁を大切にして、これからいろいろと学んでいきたい」
と話していました。
年齢も国も違います。
それでも、一丁のそろばんを前にすると、職人同士だからこそ分かり合えるものがあるのでしょう。
材料、珠の削り、部材の加工、枠の仕上げ等々。
言葉を超えて、互いのそろばんを手に取りながら話す二人の姿は、今回の大会の中でも特に心に残る光景でした。
「薪火伝承」という言葉を、職人の世界にも重ねて

大会名に使われている「薪火伝承」という言葉には、火を絶やすことなく次の世代へ受け継いでいく、という意味があります。
それはそろばん教育だけに当てはまる言葉ではありません。
そろばんを作る技術そのものもまた、次の世代へ受け継いでいかなければ、いつか途絶えてしまいます。
日本でも、中国でも、木製そろばんを一から作ることのできる職人は決して多くありません。
長年の経験によって身についた微妙な調整など、職人の手にしかできない仕事があります。
だからこそ今回、中国と日本の職人が同じ会場に立ち、それぞれの木製そろばんを紹介できたことには大きな意味があったように思います。
「どちらのそろばんが優れているか」を競うのではなく、お互いの技術を知り、学び、木製そろばんの価値を一緒に伝え、高めていく。
これもまた、国を越えた「薪火伝承」の一つではないでしょうか。
日本のそろばんを、中国の子どもたちへ


今回、高山さんからは大会の景品として日本製のそろばんも提供していただきました。
表彰された中国の子どもたちの手に、日本の職人が作った木製そろばんが渡っていきます。
一丁のそろばんは、決して大きなものではありません。
しかし、そのそろばんを手にした子どもが、
「木の珠はこんなふうに動くんだ」
「このそろばんをもっと使ってみたい」
と感じ、これから何年も練習を続けてくれたらどうでしょう。
そこから木製そろばんへの関心が生まれ、日本のものづくりや職人に興味を持つ子どもが出てくるかもしれません。
そう考えると、一丁のそろばんが果たす役割は意外に大きいものです。
商品を販売するだけではなく、実際に子どもが使う。
そして、その経験が次の興味につながっていく。
今回、景品として日本のそろばんを提供できたことは、私たちにとってもうれしい出来事でした。
台湾から参加した先生が、日本のそろばんを購入

展示ブースでは、思いがけない出会いもありました。
台湾から参加していた先生が、子どもの頃に使っていた日本そろばんを覚えていて、購入してくださいました。
実際に珠を弾き、音を聞き、木の感触を確かめるその先生には、優しい笑顔がありました。
そろばんは、やはり手に取って初めて分かる部分がたくさんあります。
今回の展示を通して、木製そろばんの魅力を海外で伝えるには、こうした「実際に触れる場所」をつくっていくことも大切なのだと感じました。
予想外の人気だった「そろばん玉ストラップ」


そして、今回の展示ブースで予想以上の人気となったのが、そろばんの珠を使ったストラップづくりです。
日本から持参したそろばんの珠と、さまざまなパーツを用意し、子どもたち自身に好きな組み合わせを選んでもらいました。
「この色がいい」
「こっちの珠を入れたい」
と、子どもたちは真剣にパーツを選んでいきます。
競技会場では緊張した表情で問題に向かっていた子どもたちが、ブースでは一転して楽しそうな笑顔を見せていました。
自分で選び、自分で作り、自分だけのものを持ち帰る。
完成品をただ「見る」「買う」のではなく、そこに自分自身が参加することで、そろばんとの距離がぐっと近くなるのだと思います。
そろばんを伝えるというと、どうしても「計算する道具としてのそろばん」を考えがちです。
しかし、普段自分たちが弾いているそろばんの珠でものを作る楽しさなど、そろばんには競技とは違う入口もあります。
今回のストラップづくりは、それを子どもたちから教えてもらったような気がしました。
「そろばん」という小さな道具から
日本の木製そろばんを知ってもらうこと。
国を越えて先生や職人が交流すること。
そろばんという小さな道具を通して、人と人、文化と文化をつないでいくこと。
今回、中国と日本の二人の職人が上海で出会ったことも、その小さな一歩だったのかもしれません。
今回上海で生まれたご縁を、一つの経験で終わらせるのではなく、次につなげていきたいと思います。
中国のそろばん大会のシリーズはこれで終わりにします。
次回は、今回の渡航に合わせて、世界最大のそろばん博物館にも訪れたので、それもご紹介したいと思っています。

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